antisperm antibody (ASA)
抗精子抗体とは精子を障害する抗体で、男女とも持っている可能性があります。この抗体は妊娠に必要な様々なステップを障害する場合があります。女性不妊のすべてをスクリーニングした場合の抗精子抗体の検出率は2~3%です。精子抗原には多様性があり、それに対する抗体も多様です。現在、不妊症の発症と最も関連する抗精子抗体測定法として一般の検査機関で測定されているのは精子不動化抗体です。
精子不動化抗体の検査方法:
検査のタイミングは月経周期と関係なく随時可能で、採血で行います。患者血清中の精子の運動性が対象に比較して50%に低下した場合を抗体陽性(SIV2)と判定します(定性試験)。定性試験で陽性の場合の抗体価を表現するために、血清を希釈して測定し、SIV2になった希釈倍率をSI50値として表現します(定量試験)。
精子不動化抗体による不妊症発生の原因
① 頸管粘液内精子通過障害
② 子宮~卵管内精子通過障害
③ 受精障害
④ 胚の発育・着床障害
精子不動化抗体を産生する女性では、抗体が頸管粘液内にも分泌され、精子の通過を妨げます。また卵管内にも精子不動化抗体は分泌され、人工授精で精子を子宮腔の奥まで注入しても卵管内でその通過が妨げられます。さらに精子不動化抗体は受精を妨害し不妊症の原因なります。
治療方針:
精子不動化抗体価は同じ患者さんでも自然変動するため、抗体測定を少なくとも3回反復して検査を行い、その結果により治療方針を決定します。SI50値が常に10以上の高抗体価群の場合には、人工授精までの治療では妊娠は困難なので、体外受精・胚移植を行います。中抗体価群あるいは低抗体価群の場合は、人工授精または反復人工授精を行い、妊娠成立しない場合は体外受精・胚移植を選択する。
高齢の不妊患者には精子不動化抗体測定による治療の迅速化が求められる:
精子不動化抗体価が常に10以上の不妊症女性は体外受精・胚移植の適応です。不妊患者の高齢化が顕著である現在の不妊治療は時間との闘いです。不妊診療の早期の段階で抗精子抗体による不妊症をみつけることで、抗体の存在を知らずに段階的な治療を経て生殖補助医療に至る「時間の浪費」を防ぐことができます。
参考文献:
1)今すぐ知りたい!不妊治療Q&A、久慈直昭ら編、医学書院、2019、p117
2)生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
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