体重減少性無月経

18歳以下の続発性無月経のうち体重減少性無月経によるものは44%であったと報告されており、思春期女性において体重減少性無月経は特に重要な疾患と言えます。体重減少性無月経では、体脂肪からのレプチン産生が減少し、視床下部からのGnRHの分泌が障害されることが排卵障害の原因とされています。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ312 体重減少性無月経の取り扱いは?

1. 身長と体重から、重症度を評価する。(A)
2. 神経性やせ症(神経性無食欲症)を疑ったときは専門とする医師に紹介する。(B)
3. 内分泌学的検査により障害部位を確認する。(B)
4. 標準体重の90%までの体重回復を目指す。(B)
5. 長期の低エストロゲン状態のときは、骨量を測定し、ホルモン療法を行う。(B)
6. 排卵誘発は妊娠を希望し、全身状態が改善したときに行う。(B)

低体重の重症度(WHOの基準):
①軽度:BMI 17以上、18.5未満
②中等度:BMI 16以上、17未満
③重度:BMI 15以上、16未満
④最重度:BMI 15未満

体脂肪率が正常で減量の必要が全くないのに、痩せているほど美しいとの思い込みから無理なダイエットを行い、続発性無月経を主訴に病院を受診する若い女性が少なくありません。

体重減少性無月経の多くは第2度無月経を示しますが、貧血や低栄養状態の悪化を防ぐために、原則月経を起こさせるホルモン療法よりも、まずは適切な食事指導により標準体重の90%までの体重回復を優先させます。

続発性無月経の自覚症状から婦人科を受診する場合が多いですが、婦人科医としては中等度以上の低体重(BMI:17未満)の場合は、その時点で摂食障害を専門としている専門医(心療内科、内科、精神科など)への紹介を考慮すべきです。神経性やせ症(神経性無食欲症)は、患者の6~20%が栄養失調、不整脈、自殺などにより死亡するとされ、生命に関わる疾患であると認識すべきです。重症例では救命のために緊急入院のうえ、運動制限や高カロリー輸液などが必要です。米国精神医学会のDSM-5における神経性やせ症(anorexia nervosa)の診断基準から無月経が除外されていますが、これはホルモン療法により月経を有する場合がある点や、著しい体重減少があれば無月経かどうかに関わらず対応が必要であるという考え方によります。

神経性やせ症(神経性無食欲症)の有病率については、研究により差が認められますが、思春期の女子の約0.5%から1%で神経性やせ症が発症すると推定されています。また男性の10倍から20倍の割合で女性に多く発生することが確認されています。

神経性やせ症/神経性無食欲症の診断基準(厚生労働省)
1. 標準体重の-20%以上のやせ
2. 食行動の異常(不食、大食、隠れ食いなど)
3. 体重や体型についての歪んだ認識(体重増加に対する極端な恐怖など)
4. 発症年齢30歳以下
5. (女性ならば)無月経
6. やせの原因と考えられる器質性疾患がない
(厚生労働省特定疾患・神経性食欲不振症調査研究班)

神経性やせ症/神経性無食欲症の診断基準(米国精神医学会、DSM-5)
A. 必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る。有意に低い体重とは、正常の下限を下回る体重で、子どもまたは青年の場合は、期待される最低体重を下回ると定義される。
B. 有意に低い体重であるにもかかわらず、体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある。
C. 自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如。

肥満でダイエットの必要がある人の場合でも、急激なダイエットは危険です。せいぜい1カ月で3kg以内の減量にとどめ、ゆっくり減量する必要があります。元の体重の10~15%くらいの体重が急激に減少すると無月経になる危険性があります。一般に、月経が起こるには体脂肪率が少なくとも17%程度は必要で、月経周期を維持するためには体脂肪率22%以上が望ましいとされています。月経が起こるためにはある程度の体脂肪が必要です。

参考記事:
無月経の分類

参考文献:
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020

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